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『28年後…』をゾンビ映画だと思って観に行ったやつ、正直に手を挙げろ。……ほら見ろ、大勢いる。だから観客の評価が割れるわけだ。
結論から言う。この映画は、感染者が暴れる話ではない。死者をどう弔うかという話だ。そして実に不愉快なことに、「独身こそ最強」を掲げてきたこの僕が、劇中の一人の医者に静かに論破された。やれやれ。悔しいので、順番に、たっぷり屁理屈をこねながら解説してやる。
『28年後…』は完結編ではない。新三部作の1作目だ
「完結編」だと思っているやつへ
『28年後…』を完結編だと思っているやつがいる。違う。図面の1枚目を見て「竣工しました」と言うようなもので、まだ基礎の段階だ。
『28年後…』は最初から三部作として作られていて、続編とは続けて撮影されたとBloody Disgustingが伝えている。第2作『28年後… 白骨の神殿』は2026年1月16日に日米同時公開された(ソニー・ピクチャーズ公式)。監督は『キャンディマン』のニア・ダコスタで、ダニー・ボイルは製作にまわっている。
ちなみに『28日後…』は2002年、『28週後…』は2007年の作品だ。『28週後…』でボイルは製作総指揮の立場だった。『28年後…』は、そのボイルと脚本家アレックス・ガーランドが、監督と脚本として戻ってきた作品なわけだが。
そもそも「感染者」はゾンビではない。呼び方くらい正確にしろ
死者ではなく、凶暴化した人間だ
映画.comの作品紹介は、このシリーズを「人間を凶暴化させるウイルスが蔓延した世界」の物語と説明している。つまり感染者は蘇った死者ではなく、ウイルスで極端に攻撃的になった生きた人間だ。
ゾンビと一括りにするのは、ステーキとハンバーグを同じ肉料理と呼ぶようなものだ。焼き方も食い方も違う。この区別がつかないやつが「思ってたのと違う」と文句を言う。要するに、それは観る側のシステムのエラーだ。
パンデミックを知ってしまった世代は、この映画で古傷を突かれる
「人が消えた都市」はもう空想ではない
2002年の観客より、僕らのほうがはるかに痛いところを突かれている。『28日後…』が空想で見せた無人の都市を、僕らは2020年に現実として歩いたのだから。ボイルはLos Angeles Timesで、COVIDとBrexitが映画に入り込まないはずがないという趣旨の説明をしている。
非常事態が長引けば、人は恐怖に慣れ、リスクを取りながら暮らし始める。実に人間らしい図々しさだ。
世界が英国を隔離するという逆転
作中では英国が感染地域として隔離され、外の世界は普通に回っている。英国が自分から出て行ったBrexitの、ちょうど裏返しだ。
自国にとっては世界の終わりでも、外から見れば遠い国の災害。ハッ、独りを愛する僕にはよく分かる感覚だ。ただし僕は自分で選んで独りなのであって、隔離された英国民と一緒にするな。
あらすじ(ネタバレなし):この島は、物件として最高だった
潮が門番をする、24時間無人警備の島
舞台は感染爆発から約28年後の英国。主人公は12歳の少年スパイクで、彼が暮らすのは潮が引いたときだけ本土と道がつながる島、Holy Island(リンディスファーン島)だ(Time誌の解説)。実在の島で、ノーサンバーランドの公式観光情報が『28年後…』のロケ地として紹介している。
満潮になれば道が海に沈む。電気も人手も要らない、24時間稼働の門番だ。設計者なら喉から手が出る立地なわけだが、この防壁には致命的な弱点がある。それは後半で指摘する。
父に連れられて本土へ。そして母の病が
父ジェイミー(アーロン・テイラー=ジョンソン)に連れられて初めて本土へ渡ったスパイクは、母アイラ(ジョディ・カマー)の病をきっかけに、まったく別の旅に出ることになる。監督はダニー・ボイル、脚本はアレックス・ガーランド。日本公開は2025年6月20日だった。
文明が止まると、人は過去へ戻る
島の暮らしは弓矢が主役だ。12歳の少年が初めて感染者を仕留めれば、村を挙げての宴になる。28年経って戻ったのは、技術ではなく価値観のほうだった。
基礎が抜けた建物が、古い工法にすがっているだけだ。進歩ではない、退行だ。
iPhoneで撮った? 結構だ。ただし理由は話題性ではなく「小ささ」だ
主力はiPhone 15 Pro Max
主力カメラはiPhone 15 Pro Maxで、WIREDが制作関係者への取材をもとに伝えている。撮影監督アンソニー・ドッド・マントルは、Los Angeles Timesに、完成作品の約75〜80%がiPhone撮影だと説明した。
もちろん素のiPhoneを構えただけではない。プロ用のケージやレンズを組み合わせた、れっきとした撮影システムだ。話題作りのためだけに機材を変えるほど、ボイルも暇ではないだろう。
最大20台を並べた「貧者のバレットタイム」
さらにiPhoneを最大20台並べるリグまで作られた。一瞬の暴力を複数の角度から切り刻むための装置で、ボイルは「貧者のバレットタイム」という趣旨で呼んでいる。
製作費は約6,000万ドルだ(The Numbers)。高級シネマカメラを買えない予算ではない。それでも小型機を選んだのは、荒野に大所帯で乗り込むと、そこが「撮影現場」に変わってしまうからだと説明されている。現場が肥大化するほど設計の意図は薄まる。建築でも同じだ。この判断には全面的に同意する。
道路を5日間止めた渓谷ロケ
終盤の一部は、サマセットのチェダー渓谷で撮られた。Somerset Councilによれば、2024年7月に道路が5日間閉鎖され、100人以上のスタッフが準備から原状復帰まで関わっている。
CGで済ませず実在の風景に頼ったから、荒廃した世界がどこか風景映画のように美しい。手間を惜しまない現場は、いい仕事をするものだ。
ここからネタバレだ。僕はケルソン博士に論破された
感染者は倒せる。病気は倒せない
中盤から映画は、感染者との戦いより母アイラの病を軸に動き出す。スパイクは母を連れて島を抜け出し、本土で暮らすドクター・ケルソン(レイフ・ファインズ)を訪ねる。下される診断は末期のがんで、ケルソンは母の安楽死を手伝う(Time誌、Netflix Tudum)。
感染者は弓で倒せる。病気は倒せない。この映画が一番残酷なのはそこだ。ゾンビ映画を期待した客が面食らうのも、当然なわけだが。
骨の寺院は「メメント・モリ」であり「メメント・アモーリス」
ケルソンが人骨を積み上げた塔は、死を忘れるなという意味の「メメント・モリ」の記念碑だ。母の頭蓋骨も、スパイクの手でその頂に置かれる。そしてケルソンはスパイクに、愛を忘れるなという意味の「メメント・アモーリス」を語る(Wikipedia英語版)。
構造計算書を見せてもらいたいところだが、それはさておく。問題はここからだ。
失敗談:先月、独りで洗濯機を運んで腰をやった
白状する。先月、洗濯機を独りで入れ替えようとして、腰をやった。誰かを呼べば済む話だ。呼ばなかったが。「独りで完結できる」と信じすぎた、初歩的な設計ミスだった。
ケルソンは、僕より徹底した独居者だ。荒野に独りで暮らし、それでも死者を弔い、他人に愛を説く。「寂しさと孤独は別物」という僕の持論は成立する。しかし「愛は不要」とまで言えば、あの医者に鼻で笑われる。要するに、骨組みの正体は愛だったわけだ。「よけいなお世話です」と返したいところだが、認めるしかない。やれやれ。
殺さず、眠らせる。ケルソンの手間のかかる工法
Time誌によれば、スパイクは本土で「アルファ」と呼ばれる、より大きく強い感染者の存在を知る。そのアルファのサムソンが骨の寺院に暴れ込んだとき、スパイクは薬を仕込んだ吹き矢で相手を止める(Netflix Tudum、Wikipedia英語版)。ケルソンも、感染者を殺すより鎮静させる道を選んでいる(Forbes)。
殺すほうが手っ取り早いに決まっている。それでも、あえて眠らせる。手間のかかる工法を選ぶ職人の仕事だ。この男は、独居者のくせに、他人の命の扱いが一番丁寧なわけだが。
島の「絆」は、内側から腐っていた
もちろん、僕の持論を補強する場面もある。息子の初狩りを祝う宴のあと、スパイクは父ジェイミーの浮気を目撃して失望する(Time誌)。外壁は堅牢、柱は腐り。そういう共同体だった。
スパイクは離れ家に火をつけ、見張りの注意をそらして母と島を出る(Caution Spoilersのあらすじ解説)。潮という完璧な防壁を破るのは、いつだって内側の人間だ。『28週後…』では、感染した妻に情をかけた夫がキスをして、隔離された安全地帯が崩壊した。あれと同じ構造だな。結婚なんてものは、人生の墓場だ。人間関係とは、最大の施工不良だ。
12歳の巣立ち、そして続編への接合部
スパイクは母を看取り、赤ん坊を島の門前に預けて、一人で本土へ歩き出す。赤ん坊の名は、亡き母と同じ「アイラ」だ(Wikipedia)。
そこへ、金髪のカルト集団を率いる大人のジミー・クリスタル(ジャック・オコンネル)が現れる。冒頭の少年が成長した姿だ(Forbes)。Time誌がトーンの唐突な変化と評したこの終幕が、続編への入口になる。
巣立ちを美談にするな。あれは設計の見直しだ
スパイクは母を看取り、赤ん坊を預けて、一人で歩き出す。感動的な場面なのだろう。だが僕に言わせれば、あれは美談ではなく設計の見直しだ。父が信じた「狩りで男になる」という古い設計図は、母の死で崩れた。崩れた基礎の上に住み続けるか、更地から建て直すか。少年は後者を選んだだけの話だ。
ただし、更地から建て直すには、12歳はまだ早すぎる。独りで立つ覚悟と、独りで立てる力は別物なわけだが。しかも彼を前へ押し出したのは、ケルソンという他人の言葉だ。結局、独りで立つにも、他人の助けが要る。やれやれ。
なぜ賛否が割れたのか:批評家88%、観客63%
まず数字を並べる
Rotten Tomatoesは、批評家88%(399レビュー)、認証済み観客63%。Metacriticはメタスコア77(56件)、ユーザースコア6.2だ(いずれも確認時点)。批評家には好評で、一般観客では割れている。構図ははっきりしている。
どちらが正しいかは、どうでもいい
問題は、なぜ割れるのかだ。予告編から感染者が大量に襲いかかる激しいホラーを期待した客にとって、中盤以降の家族と病と死の話は肩透かしだった。加えて、唐突に空気が変わる終幕だ。
これは僕の解釈で、低評価をつけた全員の理由ではない。ただ、映画の中身と客の期待が噛み合わなかったことが、点数の割れ方に出ているのは間違いないだろう。
興収は約1億5,100万ドル。だが「儲かった」とは言えない
Box Office Mojoの集計で、世界興収は151,329,249ドル。製作費約6,000万ドルの約2.5倍だ。北米の初週末興収30,002,966ドルは、シリーズ最大のオープニングだった。
ただし、興収は劇場と分け合うもので、宣伝費や配給費もかかる。「1億5,000万ドル売れたから、9,000万ドル儲かった」はバカの暗算だ。コンクリートの強度を見た目で判断するようなもので、危険極まりない。
桑野の辛口評価:ここが気に入らない
ラストは、接合部が丸見えだ
あの終幕は、既存棟と設計思想の違う増築部分に見えた。次作への布石だと分かっていても、直前まで積み上げた静かな喪の時間を、奇妙な集団が一気に塗り替えるのは乱暴だ。
続編込みで観れば意図は分かる。だが1本の映画として観れば、接合部の処理が粗い。割れて当然だ。
感染者が、少し余っている
巨大な感染者アルファのサムソン(チー・ルイス=パリー)は、確かに怖い。それでも、この映画の恐怖の中心にいるのは、病に苦しむ母だ。
ホラーとして観れば物足りず、人間ドラマとして観れば感染者が余る。二兎を追って、どちらにも少し届かない瞬間があった。刺激を求める人間には、はっきり不向きだ。
続編『白骨の神殿』は観るべきか:観ろ
引っかかった人間ほど、確かめる価値がある
映画.comによれば、第1作の主人公ジムを演じたキリアン・マーフィが、約24年ぶりに同じ役でシリーズへ復帰している。一方、Fangoriaは続編の興行が芳しくなかったと伝えつつ、ソニーが第3作にゴーサインを出したとも報じている。三部作の行方は、まだ楽観できない。
ちなみに日本での『白骨の神殿』はR15+指定だ(公式アカウントの告知)。上映時間は109分(CINEMORE)。指定を見て怖じ気づくやつは、そもそも僕の記事を読む資格がない。
賛否が割れた終幕を、続編がどう回収するのか。それだけで、観る理由になる。
観る順番と、どこで観るか
『28日後…』から。異論は認めない
観る順番は、『28日後…』、『28年後…』、『28年後… 白骨の神殿』だ。『28週後…』を挟むかどうかは好みだが、いきなり『28年後…』から入るのは、基礎工事を飛ばして屋根を葺くようなものだ。バカかお前は、と言いたくなる。
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総評:良作だ。ただし、ホラーを期待する人間には勧めない
結論から言う。『28年後…』は、感染者映画の顔をした、死と喪失の映画だ。撮影の工夫と、ケルソン博士という人物の造形は素晴らしい。一方で、終幕のトーン変化は接合が粗く、ホラーの刺激を求める人間には不向きだ。
そして何より、独りで生きることを最強と言い切ってきた僕が、荒野の独居者に「愛を忘れるな」と諭された。悔しいので、続編『白骨の神殿』で、もう一度論破し返してやる。ひかぬ、こびぬ、かえりみぬ、だ。
数字で言えば、批評家88%に対して観客63%だ。この開きが、この映画の性格をすべて説明している。ホラーの看板を掲げて、中身は喪の映画。看板と中身が違う店に、期待して入った客が怒る。当たり前の話なわけだが、店主の腕は確かだ。
向いている人・向いていない人
- 向いている人:感染者の恐怖より、家族・病・死を描くドラマを観たい人
- 向いている人:『28日後…』の文明崩壊のその後を、時間をかけて観たい人
- 向いていない人:序盤から終盤まで、感染者が大量に襲ってくる展開を期待する人
桑野信介の映画採点
- 構造的欠陥のなさ:★★★☆☆(潮の防壁は見事。終盤の増築は接合が粗い)
- 独身の推奨度:★★★☆☆(ケルソン博士に論破された。満点は取り下げる)
- 犬(パグ)の出演:☆☆☆☆☆(今回も出てこない。この映画最大の減点ポイントだ)
- 総合評価:「死を忘れるな、愛を忘れるな」の必修科目
……まあ、お前のような人間に、荒野で独り骨を積む生活は向かないだろうがな。せいぜい、誰かに洗濯機を運んでもらえ。さて、金魚のエサやりの時間だ。ほっといてください。もう帰っていい。
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